「薬剤師は多すぎて、将来性がないって本当?」
「2045年には12万人も薬剤師が余るって聞いたけど…」
現役の薬剤師さんや、これから薬剤師を目指す薬学生さんの中には、こんな不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、この「薬剤師過剰説」は、半分ホントで半分ウソです。
確かに、国が発表したデータを見ると薬剤師の数は増え続けており、将来的には飽和状態になる可能性があります。
しかし、その一方で「職場が人手不足で毎日ヘトヘト…」と感じている方も多いはず。
この記事では、なぜこのような矛盾が起きているのかを解説し、これからの薬剤師が「AIに仕事を奪われず、市場価値の高い専門家」として生き残っていくための具体的な戦略をご紹介します。
薬剤師が「多すぎ・余る」と言われる2つの根拠
そもそも、なぜ「薬剤師は多すぎる」と言われるようになったのでしょうか?その大きな根拠は2つあります。
根拠①:厚生労働省が
「2045年に最大12万人余る」と発表
「薬剤師が余る」という話の最大の根拠は、厚生労働省が発表した未来予測です。
2021年に公表された「薬剤師の需給調査」では、この様な内容が示されました。
2045年までに薬剤師の供給数が需要数を大幅に上回り、最悪のシナリオでは最大で12万6000人が過剰になる可能性がある。
(厚生労働省「薬剤師の需給調査」より)
12万6000人というと、現在の薬剤師総数(約32万人)の3分の1以上にあたります。
国が「薬剤師は将来、大幅に余りますよ」と言っているわけですから、不安になるのも当然ですよね。
根拠②:薬学部の新設ラッシュで、
薬剤師が大量に供給
薬剤師が増え続けている背景には、国の政策が大きく関わっています。
- 国策としての「医薬分業」推進 昔は病院で診察を受けて、そのまま薬をもらう「院内処方」が当たり前でした。
しかし、国が処方と調剤を分ける「医薬分業」を推進した結果、街の調剤薬局が爆発的に増加。それに伴い、薬局で働く薬剤師の需要も急増しました。 - 薬学部教育の「6年制」移行と新設ブーム 2006年度から、より高度な知識を持つ薬剤師を育てるために薬学部は4年制から6年制になりました。これをキッカケに大学の薬学部新設ブームが起こり、薬剤師を育てる大学の数は約1.7倍に急増。
毎年たくさんの新卒薬剤師が市場に供給される「巨大なパイプライン」が出来上がったのです。
需要(薬局)と供給(薬学部)が国の政策によって拡大し、薬剤師の数は右肩上がりに増え続けてきました。しかし、医薬分業率が8割近くに達し需要が頭打ちになってきた今、供給だけが続いている。
このミスマッチが、「薬剤師過剰」問題の根本原因となっています。
多すぎるのに人手不足?
現場で起きている矛盾
「国が『薬剤師は余る』と言っているのは分かった。でも、うちの職場人が足りなくて毎日忙しいのだけれど…」
現場の薬剤師でそう感じている人は決して少なくないはずです。
「薬剤師は余っている」言われている一方で、現場からは「薬剤師が足りない」という悲鳴が聞こえる。
この矛盾が重要なポイントです。
実は、全国平均という大きな数字だけでは見えない、深刻な「偏り」が起きています。
【地域による偏り】
都会は飽和状態、地方は争奪戦!
薬剤師の数は、日本全国で均一ではありません。東京や大阪などの都市部には薬剤師が集まりやすく飽和気味ですが、地方では深刻な薬剤師不足に陥っています。
その差が一目でわかるのが、薬剤師1人に対して何件の求人があるかを示す「有効求人倍率」です。
都道府県 | 有効求人倍率 | 状況 |
栃木県 | 9.72 倍 | 1人の薬剤師を約10社が奪い合う、超売り手市場 |
岡山県 | 8.63 倍 | |
福島県 | 6.99 倍 | |
全国平均 | 3.41 倍 | |
東京都 | 2.98 倍 | 平均よりやや低い |
埼玉県 | 1.64 倍 | 競争が激しい |
神奈川県 | 1.42 倍 | 1人の薬剤師を1.4社しか求めていない激戦区 |
衝撃的なのは、神奈川県(1.42倍)と栃木県(9.72倍)では、求人の数が約7倍も違うという事実です。
つまり、あなたがもし都市部で「求人が少ないな…」と感じていても、一歩地方へ踏み出せば、引く手あまたの貴重な人材になれる可能性があるのです。
【職場による偏り】
薬局にはいるけど、病院は人手不足
もう一つの深刻な偏りが、働く場所によるミスマッチです。特に、「薬局」と「病院」の間には大きな需給ギャップがあります。
- 薬局・ドラッグストア:都市部を中心に充足傾向にある
- 病院:全国的に、特に地方病院で慢性的な薬剤師不足
なぜ病院に薬剤師が集まらないのでしょうか?
大きな理由の一つが給与です。
キャリアのスタート時点では、病院よりも薬局の方が給与水準が高い傾向にあり、若手の薬剤師が薬局に流れやすい構造になっているのです。
「薬剤師過剰」問題は、単純な人数の話ではありません。
薬剤師という専門家が、本当に必要とされている場所(地方・病院)に行き渡っていないという人材の偏りも原因なのです。
これからの薬剤師に
求められる役割とは?
「薬剤師が余る未来」は大きな脅威ですが、同時に役割を根本から見直すチャンスでもあります。
国が後押し!「対物業務」から
「対人業務」への大転換
国は、薬を棚から取ってきて数を数えるような「対物業務」から、患者さんの話を聞き、薬学的管理や指導を行う「対人業務」へシフトするよう、明確に方針を打ち出しています。
「かかりつけ薬剤師」や「在宅医療」などが、まさにその代表例です。
これからの薬剤師は「調剤室の専門家」ではなく、患者さんの服薬情報を一元管理し、副作用や相互作用をチェックし、日常生活での注意点やサプリメント等の健康相談にも乗る「地域住民の健康パートナー」へと進化することが求められています。

「地域」というワードはこれからの薬剤師にとってますます重要になってきます。
AI・機械化で「調剤・投薬だけ」
の薬剤師は淘汰される
この「対人業務」へのシフトを後押ししているのが、AIや調剤機器の進化です。
ピッキングや計数、薬歴の入力補助といった単純作業は、どんどん機械に置き換わっていくでしょう。
これは何を意味するか?
- ポジティブな側面:単純作業から解放され、患者さんと向き合う時間が増える
- 厳しい側面:「調剤や最低限の投薬しかできない薬剤師」は、将来的に機械に仕事を奪われる
テクノロジーを脅威と捉えるのではなく、薬剤師としての専門性を発揮するためのパートナーとして使いこなすことが、未来を生き抜くカギとなります。
供給過剰時代を勝ち抜く!
薬剤師の市場価値を高める
生存戦略!
では、変化の激しい時代の中で、薬剤師として自分の価値を高め、生き残っていくためには具体的に何をすればいいのでしょうか?
ここでは3つの生存戦略をご紹介します。
戦略①:専門性を磨いて「あなたが良い」と言われる存在になる
競争が激しくなればなるほど、「何でも屋(ジェネラリスト)」は競争に巻き込まれやすくなります。
他者と差別化し、替えの効かない存在になるためには、高度な専門性を身につけるのが最も確実な方法です。
特に、今後の需要増が見込まれる以下の分野の専門・認定薬剤師資格は、あなたのキャリアにとって強力な武器になります。
- がん専門薬剤師
- 感染制御専門薬剤師
- 在宅療養支援認定薬剤師
- 緩和薬物療法認定薬剤師 等
これらの資格は、スキルアップだけでなく、年収アップやより良い条件での転職に直結する可能性を秘めています。
戦略②:「薬局・病院以外」へ!
キャリアの選択肢を広げる
薬剤師の約8割は薬局か病院で働いていますが、残りの2割は多様なフィールドで活躍しています。
調剤や服薬指導という枠にとらわれず、視野を広げてみましょう。
- 製薬企業:新薬開発の最前線(MSL、CRA)、品質管理、薬事申請など
- 行政・公務員:保健所の行政薬剤師、麻薬取締官など
- 教育・研究機関:大学の教員や研究者など
今の働き方に将来性を感じなかったり、人間関係に疲れてしまったりしたなら、思い切ってキャリアチェンジを検討するのも一つの手です。
「自分の市場価値ってどれくらいだろう?」 「他の職場ではどんな働き方ができるのかな?」
もし少しでも今のキャリアに不安や疑問を感じたら、転職エージェント等のキャリアのプロに相談してみることを強くおすすめします。
薬剤師専門の転職エージェントなら、あなたの経験やスキルを客観的に評価し、あなたに合ったキャリアプランを提案してくれます。
登録や相談は完全無料なので、「とりあえず話だけ聞いてみる」というスタンスでOK。
自分の可能性を知るだけでも、大きな一歩になりますよ。
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戦略③:未来への必須スキル
3つを身につける
どんなキャリアを選ぶにせよ、これからの薬剤師には共通して以下の3つのスキルが求められます。
- 相手の目線に立ったコミュニケーションができる能力:患者さんや医師、看護師、ケアマネなどと円滑に連携し、信頼関係を築く力。
- IT・データリテラシー:電子薬歴などを使いこなし、データを活用する力。
- 課題解決能力と臨床的判断力:指示を待つだけでなく、自ら患者の状態を評価し、最適な治療を提案する力。
これらのスキルを意識して日々の業務に取り組むことが、未来の市場価値に繋がります。
【まとめ】
未来の薬剤師は「過剰」か「不可欠」に二極化する!
「薬剤師は多すぎる」という言葉は、あまりにも単純化された表現です。
その裏には、都市と地方、薬局と病院という「ミスマッチ」と、仕事内容そのものの「大転換」という、より複雑な背景があります。
これからの未来、薬剤師という職業は、間違いなく二極化していくでしょう。
- 【過剰になる薬剤師】 旧来の調剤業務(モノ業務)にしがみつき、変化に適応できない薬剤師。AIや同業者との厳しい競争にさらされ、価値が低下していく。
- 【不可欠になる薬剤師】 対人業務(ヒト業務)を核とし、高度な専門性を武器にする薬剤師。テクノロジーを使いこなし、人にしかできない付加価値を提供し、社会からますます必要とされる。
厳しい未来予測は、悲観するためのものではありません。
これまでの殻を破り、専門家として新たな高みへ進化するためのチャンスです。
変化をチャンスと捉え、絶えず学び、患者さんのために「自分に何ができるのか」追求し続けること。
それこそが、不確実な時代において「余る」ではなく「選ばれ続ける」薬剤師になるための、唯一の道筋なのです。
あなたのキャリアプランを見直す第一歩として、まずは転職エージェントに相談し自分の市場価値を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。