「またミスをしてしまった…」
「集中力が続かず、いろいろな仕事をやりっぱなしになってしまう…」
「また必要な書類をなくしてしまった…これで何回目だろう」
ADHDの特性を持つ方の中には、そんな風に悩んで自信をなくしている方も多いのではないでしょうか?
高い正確性と集中力が求められる薬剤師の仕事。
不注意や多動・衝動性の特性があると、調剤過誤への不安や、マルチタスクの困難さから「自分は薬剤師に向いていないのかもしれない」と感じてしまいますよね。
この記事では、ADHDの特性と薬剤師の仕事の間で生じる困難さを具体的に解説し、具体的な対策や特性を強みに変える働き方をご紹介します。
ADHDの特性を持つ薬剤師が「辛い」と感じる3つの理由
まず、なぜADHDの特性があると薬剤師の仕事で困難を感じやすいのか、その原因を具体的に見ていきましょう。
「不注意」の特性による
調剤過誤への不安
薬剤師の業務の根幹である調剤。
しかし、ADHDの「不注意」の特性は、この業務で大きな壁となることがあります。
- ケアレスミスが多い: 薬剤の銘柄・規格・剤形の取り違えなどのミスが起きやすい。
- 集中力が続かない: 単調な作業が続くと注意が散漫になり、ミスにつながる。
- 忘れ物・紛失が多い: 重要な書類の内容不備や紛失で麻薬や覚せい剤原料などの管理に困難さを感じる。
- 薬歴管理の抜け漏れ: 患者さんのアレルギー情報や副作用歴など、重要な情報の記載を忘れてしまう。
一つのミスが患者さんの命に直結する可能性があるため、常に高い緊張感を強いられ、精神的に疲弊してしまうのです。
「多動・衝動性」が引き起こす
コミュニケーションの課題
次に「多動性」や「衝動性」の特性が、服薬指導やチーム医療といった場面で影響を及ぼすことがあります。
- 支離滅裂なことを言ってしまう:自分の考えがまとまる前に発言してしまい、話がまとまらない。
- 相手の話を遮ってしまう: 患者さんや医師の話が終わる前に、思ったことを発言してしまう。
- じっとしているのが苦手: 長時間のデスクワークや監査業務が苦痛に感じ、集中力が途切れる。
- 衝動的な行動: 優先すべき業務を後回しにして目についた作業に手をつけてしまう。
これらの行動は、悪気がないにも関わらず「協調性がない」「落ち着きがない」と誤解され、人間関係の悪化につながることも少なくありません。
「仕事ができない」
という自己否定の悪循環
ミスが続いたり、周りから注意される等の経験が積み重なると、「自分はなんてダメなんだ」「薬剤師失格だ」と自己肯定感がどんどん下がっていきます。
この自己肯定感の低下こそが、最も深刻な問題です。
失敗への恐怖からさらに緊張が高まり、それがまた新たなミスを誘発するという、辛い悪循環に陥ってしまうのです。
もう悩まない!ADHD薬剤師のための明日からできる具体的な対策7選
ADHDの特性による困難は、決して克服できないものではありません。
自分に合った工夫を取り入れることで、仕事のパフォーマンスを格段に上げることができます。
ここでは「セルフマネジメント」「職場の配慮」「専門サポート」の3つの視点から、具体的な解決策を見ていきましょう。
セルフマネジメントでミスを徹底的に防ぐ
まずは、自分自身でできる工夫から始めましょう。
ポイントは「意志」に頼らず「仕組み」でカバーすることです。
①タスクを「見える化」して抜け漏れをなくす
「あれ、何をやるんだっけ?」を防ぐために、やるべきことをすべて書き出しましょう。
- ToDoリストの活用: 手帳や付箋、スマートフォンのアプリなどを使い、タスクをリストして優先順位をつけましょう。
完了したらチェックを入れることで達成感も得られます。 - タスクの細分化: 「DI業務」のような大きなタスクは、「文献検索(30分)」「資料作成(60分)」のように、具体的な行動レベルまで細かく分解します。
ポイントは最初に想定した時間よりも+10分くらいで考えることです。
②「ポモドーロ・テクニック」で集中力を維持する
長時間じっとするのが苦手なら、無理に続けようとせず、時間を区切るのが効果的です。
- 「25分集中+5分休憩」を1セットとして繰り返す方法です。タイマーを使うことで、強制的に休憩を挟むことができ、集中力の持続につながります。
報告書等の提出書類を作成するときに効果的です。
③「物の定位置化」で探し物をゼロにする
デスク周りの整理整頓が苦手な場合、「どこに何があるか」を固定してしまいましょう。
- ハサミ、ペン、印鑑など、よく使うもの一つひとつに「住所」を作ります。
テプラなどでラベリングするのもおすすめです。探し物の時間がなくなるだけで、業務効率は劇的に改善します。
職場の理解と合理的配慮を引き出す
個人の努力だけでは限界があります。職場環境を「自分の味方」につけることも非常に重要です。
④指示は「具体的」に「書面」でもらう
口頭での指示は、聞き漏らしたり忘れたりしがちです。
- 上司や同僚に、指示内容は口頭だけでなくメモして渡してほしい、とお願いしてみましょう。
- 「なるべく早く」のような曖昧な指示は、「〇日の〇時までにお願いします」と具体的な期限を確認する癖をつけましょう。
締め切りを明確にすることで仕事の優先順位をつけやすくなります。
⑤テクノロジーとダブルチェックを最大限に活用する
ヒューマンエラーは誰にでも起こるもの。それを防ぐための仕組みを積極的に利用しましょう。
- 監査システムや調剤ロボットが導入されている職場であれば、積極的に活用します。
- 簡単な作業でもダブルチェックを徹底する。
ステップ3:専門家のサポートを積極的に活用する
一人で抱え込まず、専門的なサポートを受けることも大切な選択肢です。
⑥専門医による「薬物療法」を検討する
ADHDの特性は、脳の機能的な特性によるものです。
薬物療法によって、不注意や衝動性をコントロールしやすくなる場合があります。
コンサータやストラテラといった治療薬は、集中力を高め、仕事のパフォーマンスを向上させる効果が期待できます。
また自分自身が服薬経験を持つことで、患者さんの気持ちに寄り添った、説得力のある服薬指導ができるという強みにも繋がります。

病気のことを一番理解できるのはその当事者です。
自分自身が経験しているのは何よりの強みです。
⑦就労移行支援などの専門機関に相談する
障害者手帳の有無にかかわらず、ADHDの特性を持つ人の就労をサポートしてくれる専門機関があります。
自分の特性に合った仕事の探し方や、職場でのコミュニケーション方法など、プロの視点からアドバイスをもらえます。
ADHDは弱みじゃない! 薬剤師としての新たな キャリアの可能性
ここまでADHDの大変な側面をお伝えしてきましたが、その特性は、見方を変えれば大きな「強み」にもなり得ます。
- 「過集中」を専門性へ: 特定の分野への強い関心や没頭する力は、DI業務や学術といった分野で大きな武器になります。
特定の疾患領域の専門薬剤師として、誰にも負けない知識を追求することも可能です。 - 共感力を活かした服薬指導: 自身の服薬経験や困難を乗り越えた経験は、患者さんの不安に深く寄り添い、信頼関係を築く上で何よりの強みとなります。
当事者のあなたの言葉だからこそ、患者さんの心に響くのです。
特性を「治す」のではなく「活かす」視点を持つことであなたの強みを発揮できます。
今の職場がどうしても辛いなら…「環境を変える」勇気を持とう
様々な対策を試しても、どうしても今の職場で働きづらさを感じるのであれば、それはあなたが悪いのではなく、働く環境が合っていないだけかもしれません。
自分に合った環境に移ることで、驚くほど仕事がスムーズに進み、自信を取り戻せるケースは非常に多いのです。
ADHDの特性に合う
「働きやすい職場」
では、どのような職場が「働きやすい」のでしょうか?
以下のポイントをチェックしてみてください。
- 業務のシステム化が進んでいるか: 調剤ロボット、監査システム、注射薬自動払出システムなどが導入されており、ヒューマンエラーを仕組みでカバーしている。
- チーム体制が確立されているか: 薬剤師一人当たりの処方箋枚数に余裕があり、お互いにサポートし合える文化がある。
- 業務が分担されているか: 調剤担当や投薬担当などの役割分担がなされており、自分のやるべき業務に集中できる。
- 研修制度や相談窓口が充実しているか: 定期的な面談や相談しやすい体制が整っている。
「働きやすい職場」の探し方
とはいえ、自分にとって働きやすい職場を見つけるのは難しいですよね。
そこでおすすめしたいのが、薬剤師専門の転職エージェントを活用することです。
転職エージェントは、いわば「転職のプロ」。無料であなたの転職活動を全面的にサポートしてくれます。
今は転職する気がなくても、相談するだけでも大丈夫です。もしかしたら、あなたの理想の職場を紹介してもらえるかもしれませんよ!
- メリット1:内部情報に詳しい
キャリアアドバイザーは、求人票には載っていない職場の雰囲気や人間関係、残業の実態といった「生の情報」を把握しています。
「ADHDへの理解がある職場」といった、あなたの希望に合った求人をピンポイントで紹介してくれます。 - メリット2:条件交渉を代行してくれる
給与や勤務条件はもちろん、「業務指示を文書でお願いしたい」といった、自分からは言いにくい希望も、あなたに代わって交渉してくれます。 - メリット3:客観的なアドバイスがもらえる
応募書類の添削や面接対策を通して、あなたの強みや魅力を客観的に引き出し、採用担当者に効果的に伝えるサポートをしてくれます。
「今の職場が自分には合わないと感じているけど、次が見つかるか不安…」
そんな漠然とした不安を抱えているなら、まずは情報収集の一環として、転職エージェントに無料相談してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
【まとめ】あなたに合った場所で、薬剤師として輝き続けよう
ADHDの特性を持つあなたが薬剤師として働く上での困難は、決してあなたの能力が低いからではありません。
特性と業務内容のミスマッチが原因であることがほとんどです。
仕組み化で工夫し、周囲の理解を得て、時には専門家の力を借りる。そして、どうしても合わない環境なら、勇気を出して自分に合った場所へ移る。
その選択肢を持つだけで、心はぐっと軽くなるはずです。
この記事が、あなたが自分らしく、薬剤師の仕事を続けていくための、はじめの一歩となれば幸いです。